前回は、業平を主人公にした「伊勢物語 六段 芥川」を取り上げました。
人が鬼に食べられてしまう、ちょっと恐ろしい話でしたね。
「伊勢物語 芥川」に続き、今日は「九段 東下り」を、二回に渡って取り上げてみたいと思います。
九段 東下り
昔、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、
「京にはあらじ、東の方に住むべき国求めに。」とて行きけり。
もとより友とする人、一人二人して行きけり。
道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。
昔、男がいた。その男は、自分自身を必要のない者だと思って、
「都には住むまい、東国の方に住むところを探しにいこう」と思って行ったそうだ。
以前からの友人を一人、二人、と連れて行った。
道を知っている人もいなくて、迷いながら行った。
三河の国八橋といふ所に至りぬ。
そこを八橋と言ひけるは、水ゆく川の蜘蛛手なれば、
橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋と言ひける。その沢のほとりの木の陰に下り居て、
乾飯食ひけり。
その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。
国、八橋という所に着いた。
そこを八橋というのは、川が蜘蛛の手のように流れ、
橋が八つかかっているから、八橋というのである。
その沢のほとりの木陰に馬から下りて腰を下ろし、
弁当の乾飯(かれいい)を食べた。
その沢にかきつばたがとても美しく咲いていた。
それを見て、ある人のいはく、
「かきつばた、といふ五文字を上の句に据ゑて、
旅の心を詠め。」と言ひければ、詠める。唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
と詠めりければ、みな人、乾飯の上に涙落としてほとびにけり。
それを見て、ある人が
「かきつばたという五文字をそれぞれの句の上に置いて、
旅の風情を詠んでみなさい。」と言うので、歌を詠みました。
『衣服を着ているうちに、裾や襟がよれて、なじんでくるように、
慣れ親しんだ妻が都にいるので、はるばるやって来た旅をしみじみと思うことだなあ』
と詠んだので、みなそれぞれ旅に思うところあって乾飯の上に涙を落として、乾飯がふやけてしまった。
三河の国(愛知県)八橋は昔からかきつばたの名所だったそうです。
愛知県の県花にもなっています。
この段はまだまだ続きます。
次回に続きます。また、見に来てくださいね☆