業平は伊勢物語の主人公であると言われています。
伊勢物語は、作者不詳で、伊勢物語を業平自身が書いたという説や、後の人が、業平の歌を物語の所々に入れて、業平を主人公にして物語を作ったという説などがあります。
古今和歌集が出される905年ごろまでには成立していたとされています。
伊勢物語は1段〜125段があり、和歌が所々に取り入れられています。
有名な歌が入っている段だけ、今回は見てみたいと思います。
六段 芥川
昔、男ありけり。
女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、
からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。
芥川(あくたがは)といふ河を率ていきければ、
草の上に置きたりける露を、
「かれは何ぞ」となむ男に問ひける。
昔、男がいた。
とても結ばれそうにはなかった女を、何年も求婚し続けて、
やっと盗み出して、とても暗い中を逃げてやって来た。
芥川という川のほとりに連れて行ったところ、
女が草の上におりていた露を見て、
「あれは何ですか」と男に尋ねた。
ゆくさき多く、夜もふけにければ、
鬼ある所とも知らで、神さへいといみじう鳴り、
雨もいたう降りければ、あばらなる蔵に、女をば奥におし入れて、
男、弓・胡ぐひを負ひて戸口に居り。はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに、
鬼はや一口に食ひてけり。
「あなや」といひけれど、神鳴るさわぎに、え聞かざりけり。
やうやう夜も明けゆくに、見ればゐて来し女もなし。
足ずりをして泣けどもかひなし。
行き先は遠く、夜も更けていたので、
鬼がいる所とも知らないで、雷までひどく鳴り、
雨が強く降ってきたので、荒れ果てた蔵の奥に女を押し入れて、
男は弓と矢筒を持って戸口にいた。
早く夜が明けてくれないかと思い続けていたが、
鬼は女をさっと一口に食べてしまった。
「あれえ」と女は叫んだが、雷が鳴っていたため男は聞くことができなかった。
だんだん夜が明けてきて、見てみると連れてきた女がいない。
足を擦って悔し泣きしたが、どうにもならない。
白玉か なにぞと人の 問ひし時 露と答へて 消えなましものを
『草の上の露を真珠ですか、何ですかとあの人が尋ねてきたとき、あれは露ですと答えて、私も露のように消えてしまえばよかったのに』
(六段、終)
次回も伊勢物語をとりあげます。
また見に来てくださいね☆